Pick up! 選手の足跡[vol.01]北村隆二
北村選手の写真

北村を拾った「仲間と楽しむサッカー」

「一緒の高校(逗葉高校)に行ってサッカーしようよ」

部活で一緒にサッカーを楽しんでいた仲間の一言で彼は変わった。「みんなと一緒にサッカーがしたい」−この一心で苦手だった勉強に打ち込み、見事逗葉高校に入学。そこから北村の新たなるサッカー人生が幕を開けた。信頼し合える仲間たちとサッカーの楽しさを分かち合い、仲間と力を合わせて試合に勝つ喜びを知っていくようになった。そして高校2年生の時、全国高校サッカー選手権大会神奈川県予選を制し、高校サッカー界最大のイベントである高校選手権初出場を決めた。初めての大舞台で北村を始めとする「サッカー大好き少年達」はのびのびとプレーし、ベスト8入りという快挙を成し遂げる。

この経験が北村の中にある意識を大きく変えた。「試合に勝つために努力する」−これまで楽しむだけだったサッカーに「試合に勝つことで得られる喜び」を求めるようになった。「勝ちたい」という一心が、彼の持ち前の負けず嫌いに火をつけ、さらにサッカーにのめり込んでいった。

高校最後の年は思うような結果は出せなかったが、「サッカーを続けたい」「サッカーをもっと楽しみたい」一心から、当時関東大学リーグ2部だった青山学院大学に進学した。しかし、そこでも北村は入学早々キャプテンともめ、再びサッカーから遠ざかってしまった。普通の大学生になりかけていた北村を再びサッカーに引き戻したのは、中学時代同様に「仲間」だった。サッカーを離れた彼を戻そうと、監督、先輩、同僚が絶えず彼に声を掛けてくれた。「ここまでして自分を気使ってくれる人達がいる。やっぱり俺もサッカーが好きだ。だからもう一度、もう一度サッカーを日常にしよう」−北村はサッカーのある生活に帰ってきた。

再び立ち上がった彼は、真正面からサッカーに打ち込んだ。そして大学3年となると、彼の中で「プロ」という意識が生まれるようになった。そしてその意識が確信に変わる。「僕を一番生かせるのはサッカーしかなかった」数チームのオファーの中から、名古屋グランパスエイト入りを決意。意気揚々とプロの扉を叩いた。

失意で終わったプロ生活。
「自分」を見つけるために、師の背中を追ってサッカーの原点に回帰。

プロ入り後、彼は自問自答の毎日を過ごす。自分のやりたいサッカーは「楽しむサッカー」だが、当然ここはプロの世界。楽しむ以上に「職業としてのサッカー」がそこにはあった。「何のためにプロに入ったのか?」「俺にとってのプロのサッカーとは何なのか」・・・プロである自分を失いかけていた北村は、僅か1年というプロ生活に別れを告げた。

失意のまま「自分のサッカー」「自分らしくいられるサッカー」を求め、彷徨い始めた頃、北村の尊敬する森山泰行から「岐阜で新しくチームを作る」という話が舞い込んできた。北村にとってはまさに「渡りに船」だった。

「一時期は地元に帰ってコーチをしようと思っていたんです。子供たちに楽しむサッカーを伝えたくて。でも森山さんに「今コーチをやるより、いろんな経験を積んでからの方がコーチとしてもいいコーチになれるんじゃないか」と言われて、その一言で決めました。この人について行こうと」

北村は森山の目指す夢の過程を共にしようと岐阜行きを決意した。サッカーを愛し、一度プロという頂点まで行った男が、再びサッカーの原点とも言える場所に帰ってきた。まるで地球の輪廻のごとく・・・。

こうして北村は岐阜の地にやってきた。尊敬する森山の背中を追って・・・。

「ここにはみんな本気でサッカーを楽しんでいる人達と、その環境がある」

待ち望んだ環境がここにはあった。
様々な回り道を経て、北村は彼のサッカーの原点があるこの地に降り立った。本当のサッカーのある場所へ・・・。

まだまだ師と目指す「夢」は始まったばかり。目指す先はまだ遥か彼方にある。これから先、あらゆる苦難が待ち受けているだろう。まさに1からのスタート。しかし、「ここはサッカー好きの集まり」(北村)というサッカーの原点がここにある限り、その苦難もすぐに喜びに変えてしまうであろう。

岐阜の地に降り立った「サッカー大好き青年」が、岐阜の人々にサッカーがある喜びをきっと与えてくれるだろう。

(文=安藤 隆人)

ライタープロフィール:

安藤隆人 1978年2月9日生まれ
高校サッカーを中心としたユース年代をこよなく愛すサッカーライター。この世代だけでなくJリーグや代表、なでしこリーグ等サッカーに関するものは可能な限り取材し、全国を所狭しと飛び回る。サッカーのあるところにこの男ありだ。地元に念願のJを狙えるチームが出来たことに、強い関心とパートナーシップを望む。

主な執筆媒体:携帯サッカーサイト「オーレ!ニッポン」、サッカー専用新聞「エルゴラッソ」、サッカーダイジェスト他